Volume01.2014 Number.03

矢吹恵子の北欧絵織物の世界

  • NORSKBILLEDVEV(北欧絵織物)とは、ヴァイキング時代からあるノルウェーの伝統工芸の一つで、寺院や城郭を飾る絢爛豪華な緞帳から、民家や農家の防寒用壁掛けといった庶民的なモチーフまで、多種多様な絵織物が作られてきた。もともとはノルウェーの厳しい寒さに耐えるために生まれたフォークアート(農民文化)であり、図柄は宗教画をベースにしたものや風景画が多い。
    タテ糸を木枠にはり、ヨコ糸で色と絵を丹念に織り込んでいく。織物に使用する糸は、ノルウェー独特の毛足が長く、毛先が固いスペルサーウール。水分を吸わないのが特徴だ。ヨコ糸をしっかり打ち込むのに食事用のフォークを使う。何十年、何百年たっても色あせすることなく、型崩れしないので、かつて遺産相続の際に金銀に次いで価値を認められていたほどだという。ノルウェーの美しい自然をそのまま再現した絵織物は、冬の時期に太陽が出ない生活を送る人々に安らぎを与えたのであろう。
    今回取材させていただいた矢吹恵子さんは、1968年単身ノルウェーに渡り、絵織物に出会った。そのインパクトは強烈で「魂が揺さぶられるほど」だったという。本格的に絵織物を学ぶため、オスロの王立ノルウェー手工芸美術学校で基礎を学んだ。
    「授業はすべてノルウェー語だったので苦労しましたが、黙々と手を動かすだけでも満たされた気持ちでした」(矢吹恵子さん)
    当時のノルウェーのイメージは、「黄色いレインコートを着たフィッシャーマンが大勢いる国」というぐらい。ノルウェーの情報は日本まで十分に伝わっていなかったが、逆にノルウェーの受け入れ態勢は寛容だったそうだ。子どもの頃から手工芸が好きで、人に教える職業につきたいと考えていた矢吹さんは、日本に帰国後、教室を主宰することになる。
    「アメリカやフランスへの留学もいまほどメジャーではない時代でしたけれど、私の根底にあったのは『人と同じ道は歩みたくない』というガンコな想い。そんな気丈さがノルウェーに合っていたのかもしれませんね」
    矢吹さんの作品からは、ノルウェー文化だけでなく日本的な情緒も感じ取ることができる。ノルウェーの伝統文化と日本の精神が融合した、初めてのカタチかもしれない。