Volume01.2014 Number.08

Diversity[ノルウェーのダイバーシティ]

充実した暮らしをするための「ワークライフバランス」を考える。

本誌で伝えたいテーマの一つに「ダイバーシティ」がある。日本語で「多様性」と訳されるこの言葉は、性別・国籍・言語の差など一人ひとりの“違い”を受け入れ、性質の相違に価値を見出すことで組織やコミュニティのパフォーマンスを向上させることを基本的概念として、いまや随分と一般的になった。
ダイバーシティとは、互いの考え方や行動を認め、取り入れ、試行錯誤するところから始まる。それによって個人の有する能力を最大限発揮できる環境を作り、生産性を上げ、豊かな暮らしにつなげていくことを目的としている。
そこで私たちは、世界に先駆けてダイバーシティに取り組んでいるノルウェーの事例を通じて、“豊かな社会のあり方”を追求していきたいと考えた。その中で今回は「ワーク・ライフ・バランス」に注目する。公私を問わず、自分らしさを存分に発揮する環境づくりがダイバーシティの根底にあるならば、仕事と生活の調和が個人・コミュニティにもたらす影響はけっして小さいものではないだろう。

2014年12月4日、ノルウェー大使館が後援する映画『おやすみなさいを言いたくて』(エリック・ポッペ監督)の試写会に参加した。紛争地帯を駆け回る女性戦場カメラマンが、仕事と家庭のどちらを選ぶかという葛藤をテーマに掲げたこの作品。当日は試写会の前に、働く母であるスノーフリッド・B・エムテルード参事官が、ノルウェー流ワーク・ライフ・バランスについて講演をすることになっていたので取材させていただいた。
「ノルウェーにおいても、1960年代までは男性が働き女性が家事を担うことが当たり前でした。それが1978年に性差別を禁止する男女平等法が法制化され、40年近くかけて男女平等を実現してきました。現在では“男女平等”という言葉自体が古めかしいものとしてとらえられ、仕事も育児も、男女ともに“シェア”する考え方が一般的です。特に、『パパ・クォータ制』(別欄参照)と呼ばれる父親の育児休暇制度は効果が大きく、いまや90%以上の男性が育休を取得しています」(エムテルード参事官)
ノルウェーでは、男女が育児に参加することが社会的コンセンサスを得ているという。男性が家事や育児に積極的に参加することにより、女性が社会進出をしやすい環境が整い、それを支える福祉システムが出来ているということだ。
一方、日本はどうだろうか?女性が育児のために一度職場から外れると、もとのキャリアや報酬を保証されることは難しい。ノルウェーと日本の社会環境や経済環境の違いがあるので、単純に両国を比較するのは難しいが、個人も企業も多種多様な考え方を取り入れ、次なる変化を求められている以上、男女の区別なく優秀な人材が活躍する仕組みを早急に確立しなくてはならない。

──というようなことは、ここ数年さまざまなところで言われている。仕事と生活における一つの考え方として、ワーク・ライフ・バランスへの意識は高まったと言ってもいいはずだ。
あとは実践することだ。そして続けてみる。「そんなこと言われても……」と及び腰になるのはわかるが、これからの人生を家族と歩み、子どもの成長を見守りたい、仕事にやりがいを感じ、それに見合った報酬を得たいのであれば、“ワークとライフのバランス”をいま一度見直すべきではないだろうか。
エムテルード参事官は「大切なのは子どもと過ごす時間の長さではなく、子どもといかに向き合い、密度の濃い時間を過ごすかだ」と言う。一日24時間のうち、仕事の比率が高いのであればそれでいいではないか。その分、帰宅後や週末、イベントがなくても有給休暇を取得して、平日の昼間からしっかり子どもと遊ぶのもよい。これは理想論ではない。とても現実的で、なにより子どもが一番に求めていることだろう。
それぞれが理想とする社会を思い描き、行動をしていく時期にさしかかっている。繰り返しになるが、もう一度言う。あとはやってみることだ。

パパ・クォータ制度1993年にノルウェーが導入したことで、北欧諸国に広がった「男性の育児休暇を一定期間割り当てる制度」、ノルウェーでは育児休暇を最長54週間取得することができ、その期間中、給与の80%(育休が44週間であれば100%)支給される。男性が取得しなければならない育児休暇は10週間。パパ・クォータ制の導入後、育休取得率は90%以上まで上がった。男性が育児・家事を主体的に行うことで女性の社会進出が促進され、合計特殊出生率も一時は1.94(現在は約1.8)に上昇。これは日本の1.40と比較して高い数値だ。男女平等の社会が実現されつつあり、日本でもこの制度を取り入れる動きも見えるが、異なる社会環境・経済環境に鑑みると、実現までの道のりはまだ過渡期の段階といえる。