Volume02.2015 Number.03

日本・ノルウェーの友好記念レースを毎年開催
国を問わず、立場を問わず、私たちにいつでも公平な、海。[江の島ヨットクラブ]

ここまでノルウェーのクラシカルな船や海の歴史を紹介してきたが、現代に生きる私たちにとって馴染みあるものに「ヨット」がある。実は毎年春、湘南エリアにおいて日本とノルウェーの交流を冠したヨットレースが開催されているのをご存知だろうか。今年で14回目を迎えた「ノルウェーフレンドシップヨットレース」を主催する一般社団法人江の島ヨットクラブ会長 浪川宏さんに、大会の起源やヨットの魅力を伺った。

1964年(昭和39年)に設立された江の島ヨットクラブは、東京オリンピック大会のヨット競技会場である江の島ヨットハーバーの管理運営団体として発足し、幅広い年齢や経験をお持ちの方々にセーリングとクラブ活動を楽しんでいただいています。
また、ヨットクラブの運営やレース開催と平行して、地元江の島の海を守るさまざまな活動に取り組んでいます。海上保安庁と協力しながら湾内の安全保持に務めたり、イベント開催時の非常時対応を担っています。お祭りや年末にはイルミネーションを点灯させた船をハーバー内に並べ、その光景は季節の風物詩となっていますよ。
年中行事といえば、毎年春に開催される「ノルウェーフレンドシップヨットレース」が挙げられます。2002年にスタートしたこのレースの生い立ちには、日本とノルウェーの深いつながりがあるのです──。
東京オリンピックのヨット競技は5クラス40カ国が参加して行われ、そのときの出場選手の一人にノルウェーの現国王であるハーラル殿下(当時皇太子)がいらっしゃいました。そして5.5メートルクラスに出場された殿下のレースを、日本の皇太子殿下と妃殿下(現天皇陛下と皇后陛下)が観戦、応援されました。
それから37年後の2001年春、ハーラル殿下はノルウェー王国の国王としてソニヤ王妃とともに国賓として再来日し、天皇陛下と皇后陛下のご案内で想い出深い江の島ヨットハーバーを訪問されました。このときの再訪を機に、日本・ノルウェー友好記念レース「ノルウェーフレンドシップヨットレース」が開催され、今年4月の第14回大会まで続いているのです。まさに両国の友好関係、フレンドシップから始まったレースだといえます。

江の島ヨットクラブのメンバー数は現在146人。クラブによっては「ヨットに乗らないけれどもクラブ活動には参加する」という方もいますが、当クラブの場合、基本的に皆さんヨットに乗る“現役”の方々ばかりです。江の島の海、富士山、葉山・鎌倉の街並みが彩るコントラストに魅せられて入会された方が多いですね。
海のスポーツというと若い方のイメージが強いかもしれませんが、高齢化の波はヨット界にも影響を及ぼしています。そうした流れに歯止めをかけるためにも、江の島ヨットクラブではジュニアクラブの運営、選手の育成に力を入れています。
1965年、日本初となるジュニアヨットクラブ「江の島ヨットクラブジュニア」を設立し、日本のヨット界の将来を担う青少年教育に務めて今年50周年を迎えました。高校生、大学生、あるいは社会人になる直前や学校が休みとなる期間も含めて、広くヨットに触れられるような環境を作りつつ、世界のセーリング界で活躍する多くの選手を輩出していきます。そしてまた、勝ち負けにこだわりすぎず、海に対するリスペクトをしっかり持てるような子どもたちを育てていきたいと考えています。 ヨットの世界には、世界共通の取り決めとして<ある国のヨットクラブに所属している人が他の国のヨットクラブを訪問した場合、クラブメンバーとして迎え入れる>という不文律があります。一般にヨットクラブはメンバー以外の立ち入ることはできないため、これは国籍を越えたヨット乗り同士の友好関係を表す約束事と言えるでしょう。
その象徴が「バージー(Burgee)」です。これはいわゆるヨットクラブ旗で、その国の逗留やクラブ間の交流の証として、互いのヨットクラブのバージーを交換する風習があります。バージーはヨットクラブの象徴ですので、欲しいと思ったからもらえるものではありません。
海は平等です。すべてが自然まかせのヨットというスポーツを通じて、海の懐の深さや厳しさ、静けさを感じられるのが魅力だと思っています。私はずいぶん長く、海の上から鎌倉や葉山の風景を眺めてきましたが、このところの近代化にともなってその姿はずいぶんと変わってきました。先人が残してくれた美しい海を「里の海」としてとらえ、海からの目線でしか見えない大切なものをこれからも伝えていきたいですね。

[ History ]1964年、東京オリンピック開催に合わせて、オリンピック競技の運営のために設立されたヨットクラブ。日本で唯一オリンピック開催経験がある江の島ヨットハーバーおよび港湾の安全管理を担っている。クラブ設立1年後にはジュニアクラブを設け、現在に至るまで幅広い層の人材を育成。初代会長は当時の神奈川県知事が務めるなど、国内でも有数の名門クラブの一つ。現会長の浪川氏は7代目にあたる。