Volume02.2015 Number.05

ノルウェーの国民的アニメ「ピンチクリフ・グランプリ」[ピンチクリフ・グランプリ]

1975年の初公開から、40年以上にわたってノルウェー国民の心にとどまり続ける作品がある。
それが人形アニメーション映画『ピンチクリフ・グランプリ』(イヴォ・カプリノ監督)だ。
これまでに何度も劇場公開され、チケットの総販売枚数は550万枚を誇る。
国の総人口が510万人ということを考えると、「ノルウェーで知らない人はいない!」というのも納得だろう。
今号の表紙に取り上げた同作品について、本誌編集長のミカールがプロダクションマネージャーの
レモ・カプリノ氏に話を伺った。同氏はイヴォ・カプリノ監督の息子にあたる。

──ノルウェー出身の私にとって『ピンチクリフ・グランプリ』は特別な作品!親に連れられて映画館にも行きましたし、自宅のVHSは何度観たかわかりません。

原作者であるチェル・オークルスト(Kjell Aukrust)は、もともとキャラクターデザイナーでした。オリジナルのキャラクターを描きながら、ユーモアにあふれたショートストーリーを執筆していたある日、映画監督のイヴォ・カプリノ氏(Ivo Caprino)からアニメーション化の企画を相談されたのです。

──それを発端としてプロジェクトが立ち上がったのですね。

当初はテレビ用にアニメーション作品を制作していましたが、ショートストーリーのつなぎ合わせでは作品としてのクオリティが保てず、テレビ局に持ち込んでも断られ続けたそうです。それであれば「映画をつくろう!」と、これまで作ったフィギュアやセットを活かして制作されたのが『ピンチクリフ・グランプリ』です。

──撮影現場のお話を聞かせてください。

監督のカプリノが所有するスタジオでは『ピンチクリフ・グランプリ』以外にも多くの人形アニメーションを作成していますが、同作品に関しては1話しか作っていません。その理由は膨大な制作コストと時間。『ピンチクリフ・グランプリ』の制作には実に6年以上の歳月がかかっています。

──6年!本編が88分の映画を作るのに、なぜそんなに時間がかかるのですか?

1コマ1コマ静止画で撮影したものをつなげているストップモーションアニメだからです。口が閉じているキャラクターにセリフを言わせるだけでも何十コマと必要ですし、動きが複雑で多くのキャラクターが同時に登場するシーンでは、1日かけても10秒分の撮影しかできなかったと聞きます。

──それは地道な作業ですね……。

たった1秒の映像のために必要なコマ数は24。全編を通してなんと126,720コマもの撮影をしました。パペット(人形)の配置はすべて監督が担当し、頭・目・腕・足など細かな動きも考えると190万回以上人形を動かしたそうです。ご自宅でVHSやDVD、Blu-rayなどで楽しまれる方は、ぜひそのあたりの苦労や努力を感じながらご覧いただけるとうれしいですね(笑)。

──日本でも1978年に劇場公開され、プロモーションとして劇中に登場する車「イル・テンポ・ギガンテ号」を再現した車両も持ち込まれたそうですね。

全国75カ所で公開され、かなりの人気を博しました。最近の話題でいうと2007年にDVDが、13年にはBlu-ray(リマスター版)が発売されました。日本語吹き替えや字幕はありませんが、現在カプリノスタジオのウェブサイトで購入できます。
http://www.caprino.no/studio/en/

──本国ノルウェーでは2010年に誕生35周年を記念して再上映されたとか。いまなお愛されている作品なのですね。

1本の映画を制作するのに膨大な時間や費用をかけても、家族がそろって楽しめる作品づくりにこだわってきたからこそ、公開から40年経ったいまでも親が子供・孫に見せたい映画として親しまれているのだと思います。まさにノルウェー人にとって、宝物のような作品ですね。

[ Story ]
元発明家である自転車修理工のレオドルは、ピンチクリフ村の高台でアヒルのソランとハリネズミのルドビグと一緒に暮らしている。
レオドルは元弟子に自分が発明したエンジンを盗まれたのを知り、カーレースで勝負を挑むことに。
さまざまなトラブルを乗り越え、スーパーカー「イル・テンポ・ギガンテ号」で出場したレースのゆくえは……?