Volume02.2015 Number.08

Diversity[ノルウェーのダイバーシティ]

ノルウェー×日本 男性の子育て事情

現在日本では、厚生労働省を中心として男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランスの実現に取り組んでいる。私たちが仕事と生活の調和をはかるためには、どのようなライフスタイルを目指せばよいのだろうか。首都圏でIT企業を経営し、福島県や兵庫県宝塚市で開催された「全国男女共同参画宣言都市サミット」において、ダイバーシティに関する講演をしているヤン・エイナル・ストロムソッドさんに、ノルウェーと日本における“男性の子育て事情”についてお話を伺った。ノルウェーのロールモデルがそのまま日本に通用するわけではないが、男性の子育て参加と家族のあり方を見つめなおす上で参考になるはずだ。Jan Einar Stromsoddさん(インターネット会社オーナー)

私が初めて日本に来たのは1996年のこと。埼玉の高校に交換留学生として来日しました。その後、東京の大学を卒業し、外資系企業の税理士法人で数年働いた後に会社を立ち上げ、現在は主に米国向けのITビジネスを手がけています。
プライベートでは4歳の男の子と3歳の女の子がいます。妻が私と一緒に働いていることもあり、子どもたちは週に4日、保育園に通っています。ときおり日曜日も仕事が入るため、水曜日は“家族の日”として4人で出かけたり、朝に時間がとれない分、保育園が終わってから寝るまでの時間は一緒に過ごしています。

以前の会社では勤務時間が深夜にかかることもあり、家族と一緒に過ごす時間が限られていた上、男性社員の育児休暇がたったの「2日間」と聞いて絶句……。そのとき自分でビジネスを興すことを決意しました。
ノルウェーで男性の育児休暇制度が取り入れられたのは1993年のことです。当初その期間は4週間でしたが、2009年に10週間に延長されました。男女平等の精神が根付いているノルウェーでも当初から受け入れられていたわけではなく、導入時点での育休取得率はわずか5%。それを地道な啓蒙活動や社会的な意識改革に取り組んだ結果、翌年には40%にまで取得率が伸び、2003年以降現在にいたるまで9割以上の働く父親が育児休暇を取っています。

他の欧州圏の国々にも男性の育児休暇制度はありますが、ノルウェーにおける制度の特徴は“男性が取得しないと育休がなくなる”という点ですね。他の国では夫婦話し合いのもと、どちらが取るのかを選べるため、“男性の”というよりも家族に与えられた権利に近いものがあります。そして結果的には母親がお休みを全部使います(笑)。
しかしノルウェーでは10週間の育児休暇は純粋に父親のみに与えられた権利です。もちろん母親が働いている場合、同じ時期に有給休暇を取ることもできますので、タイミングを合わせて家族旅行にでかけるケースも多々あります。また、ノルウェーの育児休暇はとてもフレキシブルです。10週間といっても2カ月間続けて休まなくてはいけないわけでなく、「毎週金曜日」とか「週に1日を育休として」といった取り方ができるのです。
日本の場合、このように育児休暇の取り方を本人が選べるようでなければ定着しないと思いますし、逆に「毎週○○曜日は子どもと遊ぶ」というように決めて、実行できる人は案外多いのではと思います。

もう一つ日本の問題点をあげるなら、一般的なビジネスマンだと年間20日前後の有給休暇が取れるにも関わらず、実際に取得している人がとても少ない点が挙げられます。厚生労働省のデータによれば、<育休を取得したい男性>は全体の3割におよぶそうです。新入社員のアンケートでも8割が育休をとりたいと回答している。こうした現実があるにも関わらず、実際の育休取得率はわずか2%です。文化の違いと呼んでいいのかわかりませんが、ノルウェーでは4〜5週間ほど年休をほとんどすべての人が消化します。夏の期間を楽しみたいということで、7月に働く人はほとんどないですよ(笑)。
そもそもノルウェーにあって日本にないものの一つは「風土」です。制度はあっても、それを受け入れる風土、社風がありません。その風土を誰が作っているかというと、日本の場合、管理職の皆さんですよね。仕事こそが美徳で、職場にプライベートの事案を持ち込むのはよくない、というステレオタイプな見方をされる方はまだまだいます。
そこで一人ひとりの働き方の意識を、“一所懸命からスマートに”切り替えてほしいと思います。朝から晩まで一所懸命働くのもいいですが、無駄な時間がないかを観直しつつ、定時で帰れるように工夫しながら働いた方が、よほど生産性も高いですしスマートですよね。

男性が育児休暇を取得するメリットの一つに、子どもと過ごす時間が増えるという点があります。母親が出かけていても、自由に子どもを見られるようになるということです。これはすごく基本的で当たり前のことですが、実際に私のまわりにいる日本のお父さんたちは、自分で子どもを見ることができない、その機会がないので子育てに自信が持てない。わかりやすくいうと、パパ友と子どもたちだけで出かけることが無理なんです。無理というか、無理と決めつけてしまっているとも言えます。
だからこそ育児休暇が大切になります。一緒の時間を過ごすことで父親としての自信がつきます。育児休暇が明けて、オフィスに戻った後のことを考えても、自信を身に付けるということは大きなメリットでしょう。育休をとること、家族との時間を大切に過ごすこと、多くの共有体験を持つこと──これらは本当に本人の人生や家族にとってかけがえのないことではないかと思います。
ノルウェーもまだ育休制度を完璧に確立しているわけではありませんし、日本には日本に一番適した制度を作れる余地がまだ残っています。まだまだ時間がかかると思いますが、両国で力を合わせていければと思っています。