【Interview 後編】ノルカルTOKYO、北欧音楽に魅せられて──

2017年10月19日

ノルウェー音楽デュオ「ノルカルTOKYO」の酒井絵美さんの【インタビュー 後編】をお送りします。取材当日、酒井さんの手にはノルウェーが生んだ伝統楽器ハーディングフェーレが。この春、約1カ月にわたってノルウェーに滞在し、ハーディングフェーレ製作者や現地アーティストとの交流を深めてきたそうです。

 

Spelmanslag

 

 

──ノルウェーの伝統的な冠婚葬祭に欠かせない楽器ハーディングフェーレ。その魅力について教えてください。

 

まず見た目から紹介すると、螺鈿細工などの華麗な装飾が施されているのが特徴です。ボディに直接描かれるロージング、ネックやボディの縁には貝殻、水牛など動物の骨が埋めこまれていて、<Lion>や<Dragon>と呼ばれるヘッド部分にもハーディングフェーレ製作者の個性が見えます。

 

ちなみに、楽器に装飾が施されるということは、世界に共通してみられる現象です。私がこれまでに演奏したことがあるものだけでも、インドネシアのガムラン、ミャンマーのサウン・ガウ、インドのシタール、中国琵琶、アラブのウードなど、挙げればきりがありません。古来多くの楽器には、神様に音楽を捧げるという役割があって、他の神具と同じように美しい装飾がなされることが多かったのですが、現在でも装飾は楽器の価値を高める要素の一つです。聴衆に音色だけでなく見た目でも楽しんでもらうため、工芸品として、また奏者自身の気分を高揚させてくれるという意味では、音楽の内容にも間接的に影響しているといえます。

 

15590282_10211443818395011_5502135527176836022_n

Photo by Keisuke Hara

 

──音に関してはいかがでしょう? ヴァイオリンとはまた違うものですか?

 

演奏弦の下に共鳴弦が張られているため、響きが豊かで繊細。私が長年手にしてきたヴァイオリンとは異なる独特の音色に魅せられたのと、ヴァイオリンとは楽器のルーツが違うらしいということを知ったのが、ハーディングフェーレに興味を持ったきっかけです。ただ、それからしばらくは、日頃のメンテナンスや調整方法をどうすればよいかわからなかったため、手を出せずに時間だけが過ぎていきました。

 

DSC_1591

 

──その心配を拭い去ってくれたのが、今回ノルウェーまで会いにいかれた日本人ハーディングフェーレ製作者の原圭佑さんですね。

 

ノルウェー東部のボー(Bø i Telemark)という町に、ハーディングフェーレ製作の名手Ottar Kåsaさんと日本から製作技術を習得しにきている弦楽器職人の原圭佑さんが住んでいて、その工房に滞在させてもらいました。日本から持っていったハーディングフェーレをリペアしてもらうのと、原さんの“新作”を購入したい、というのが主な目的でした。

 

▼ハーディングフェーレ製作者Ottar Kåsaさんの演奏

 

 

▼原圭佑さんの記事:StyleNORWAY

https://goo.gl/UhGkJ7

 

 

image1

※原圭佑さん、Ottar Kåsaさんと

 

──有意義な時間だったのですね。現地アーティストとの交流もあったとか?

 

Bøとは違う地域になるのですが、Vågå Spelmanslagという音楽グループのレコーディングに参加させてもらいました。古い教会でのレコーディングが印象的だったのに加え、伝承音楽だけでなく子供たちが自由に音楽を創るプロジェクトなど、プロ・アマ・大人・子供を問わず、多くの人たちが多彩な音楽を奏でている姿を目の当たりにすると、音楽が受け継がれていく過程に“新しい音”の発見があることにあらためて気づかされました。

 

 

children recording

 

──音楽以外の時間はどのようにして過ごされたのですか?

 

吹雪の日以外は毎日散歩をして、のんびりと過ぎていく時間の流れを楽しんでいました。以前にも二度ほどノルウェーを訪れたことがありますが、人と会ったりコンサートやレッスンの予定を目いっぱい詰めこんでいたので、充実した時間を過ごせたわりに、日本でのバタバタ感と大差なくて……。その点、今回の滞在ではノルウェーの家庭で生活させてもらったこともありますし、自分にとっての心地よさや音楽との向き合い方を確かめる時間がとれました。

 

──ノルウェーと日本、その文化の違いについて感じることはありましたか?

日本と、というよりは私が住んでいる東京との違いになってしまうかもしれないのですが、「自然との距離」が印象的でした。たとえば吹雪の日には外出を諦めたりインターネットに接続できなくなったりという不便なことも起こるわけですが、川が凍ればそこを道路にして対岸まで車が走ったり、車道に雪が積もれば子供がそりすべりをして遊んだり、みんな柔軟に生活の変化を楽しんでいます。そこに暮らす人は、裏山の野生動物の数をだいたい把握した上で狩りをしていますし、夏には全身が真っ赤になるまで日向ぼっこをして、長い長い夜(白夜)を楽しむために深夜にコンサートが始まったりします。

あと、忘れちゃいけないのが編み物! どこの街にも毛糸屋さんがあります。ランドスカップライケンという民俗音楽・舞踊コンペティションがあるのですが、それを観ながら編み物をしている人もいました。テレビの視聴率が高いのか、少しだけ映ったことのあるNRK(ノルウェーの国営放送局)を見たと言って、話しかけてきてくれた人もいました。

 

 

recording

 

──それではあらためて今後の活動について聞かせてください。

 

世界には素敵な音楽や楽器がたくさんあって、ノルウェー音楽やハーディングフェーレはそのどれにも勝るとも劣らぬ魅力があります。ただ、サルサやサンバ、フラやケルト音楽まではまだ日本で認識されていません。また、北欧デザインへの評価は高いのに、それと同列にあって然るべき音楽は知られていないのが現状です。

私はこれまでの演奏活動や研究活動で培ってきた技術や感覚、そしてノルウェーでの経験を頼りに、この土壌で育まれてきた音楽文化を広くお伝えできるのではと思っています。ノルウェー音楽の愛好家の方に向けて演奏会を開くだけでなく、日本で流行っている北欧雑貨のように、精神的に豊かな暮らし(=北欧らしさ)を彩るものとして、ノルウェーのローカルな音楽が浸透していくと素敵だなと思います。

そのために、ノルカルTOKYOはもちろん、フットワーク軽くソロ活動も展開していきたいですし、音楽にとどまらず美術・デザイン・ダンスなどのアートとのコラボレーションもたくさんしていきたいです。

 

今後もノルウェーに定期的に通い続け、ノルウェー現地とのつながりを活かした活動を日本で続けていく予定です。そのことは「日本人ハーディングフェーレ奏者」としてノルウェーで音楽活動をするということにつながっています。今年の9月にはノルウェーでコンサートに出演する予定ですし、ハーディングフェーレやフィドルの展示会やワークショップも同時開催予定。先ほど話にあがった弦楽器職人の原さんが製作した3作目のハーディンフェーレもお披露目されますし、ジャパニーズ・ナイト的な特集も組まれるそうです。これからもさまざまな活動を通じて、ノルウェーと日本との文化の架け橋となっていけるように努力し続けたいと思います。

 

 

◆取材協力

COUZT CAFÉ/コーツトカフェ

東京都台東区谷中2-1-11

http://www.couzt.com/

 

■ノルカルTOKYO

東京藝術大学在学中に出会い、2015年にデュオとしてデビューしたノルカルTOKYO。ノルウェー伝統楽器のほか、ピアノ、電子楽器を演奏するノルウェー出身のMortenと、フィドル奏者・音楽民族学者としてノルウェー滞在経験があり、フィドルとハーディングフェーレを演奏する東京出身のEmyによるデュオです。

公式サイト:https://www.norkul.com/

 

norkul8

 

 

◇モーテン・ヴァテン / Morten Vatn

セリエ・フルート、山笛、山羊の角、口琴、ピアノ

ノルウェー オスロ生まれ。オスロ国立音楽大学卒業後、グリーグアカデミー音楽大学院と東京藝術大学院音楽研究科を修了。3年間オスロ大学楽理科教員を務める。専門領域はサウンドレコーティング、音楽教育、ポピュラー音楽史、作曲、民族音楽学、音楽ワークショップ、創造的音楽学習。ノルウェー民族音楽界、ジャズ界、ヒップホップ界において、プロデューサーや奏者、イベント企画者として活動。ノルウェーでもっとも権威ある音楽賞「スペレマンプリセン」のクリエイター賞やゴールドディスク大賞を受賞している。

 

◇酒井絵美

ハーディングフェーレ、フィドル

東京藝術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科音楽文化学専攻(音楽民族学)修了。現在、同大学演奏藝術センター教育研究助手、東京大学教養学部鈴木寛ゼミナール「学藝饗宴」藝術&身体表現領域アシスタント。学部時代から、アイルランド・東アラブを中心に世界各地のヴァイオリン奏法に親しむ。大学院修了後はノルウェーに定期的に滞在し、ハーディングフェーレ国際マスタークラスに参加するなど、地域を広げてフィドル奏法の調査・研究・演奏を行う。